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医療コラム

実践法律基礎講座 【 “患者クレーム”に強くなる! 】

「鞭打ち症状の長引く患者」初診時の面接 No.52

2009年12月25日

 

 

◆都心のビルで内科診療所を開業する院長Dは、診療所の廊下で転んだ患者から通勤タクシー代として60万円を騙し取られ、長女の皮膚科医が60万円を取り戻すべく、入院中の患者と会うことになった。2000円の見舞いの花束に狂喜する患者に案内されて、長女は病棟の一角にある休憩室で話をすることになった。

◆患者は嬉しそうに、取りとめもないことを饒舌に語り続けた。

(いつ切り出そうか) 秘かに録音を始めてはみたものの、こんな無駄口を録音しても始まらない。饒舌は終わるところがない。長女は焦った。

 ついに長女は苦悩のあまり、「うーん」と呻ってしまった。

 すると、患者はふと黙って、複雑な面持ちでして長女の顔を見つめた。

◆長女は、吐き出すように一気に言った。

「60万円を一度返して下さい!」

 患者の顔は見る見る苦しそうに歪み、身を捩りながら長女を睨んだ。

「でも私って、最初から貴方の理解者だったでしょ。味方でしょ」

 自分でも思いもしなかった言葉が、反射的に口から飛び出した。意外としっかりとした口調だったことに、自分でも驚いた。事実、長女は微笑すら浮かべていたのだ。

◆患者の表情は、喜色満面に一変した。何を勘違いしたか、小躍りしながら長女の次の言葉を待った。

「貴方の事故をきちんと解決するために、今までのことを、60万円のタクシー代も含めて、一度白紙にもとしたいのです」

「白紙に・・?」 またまた、複雑な表情になった。

◆「そうです。お支払いしたタクシー代の60万円を、一度戻していただいて、最初からやり直したいのです」

「キー、キーっ!」 患者は奇妙な叫び声をあげ、意外なことを言い出した。

「60万円なんて、もらっていません。もらったのは、最初の5万円だけです」

「そんなー・・」 長女は唖然とした。

「何か証拠でもあるんですか」

◆半ば覚悟していた言葉だが、こうも抜けぬけと言われるとは思わなかった。確かに最

初だけタクシー代の領収書をもらっているが、2度目からは現金入りの封筒を渡しただけで、領収書などは取っていなかった。

「証拠なら、あります!」

 またもや反射的に、予想外の言葉を口走った。自分でも不思議だった。

◆驚く患者を尻目に、次の言葉が飛び出した。

「診療所の防犯カメラに写っています。毎回、その都度・・」

 もちろん防犯カメラに写したわけでなく、咄嗟の機転で言ったまでのことだった。

(どうして私、こんなに逞しくなったのだろう) 

◆患者の表情に「怯え」に変わったのが分かった。長女は患者の眼を見つめながら、にこやかに言い放った。

「大丈夫、安心して。警察になんか告訴しませんから」

 安堵と恐怖の入り混じった表情の患者に向って、

「告訴しないといっても、『今のところは』という条件付ですよ。既に弁護士さんとも相談しているのですから」

 

 

コラム著者: 三輪 亮寿 (みわ りょうじゅ)
久智行(医師・博士(医学)・法務博士(専門職))

三輪亮寿法律事務所 弁護士・大分大学医学部 講師

経歴:
1955年(昭和30年)東京大学医学部薬学科卒業。
製薬企業の研究所に勤務後、弁護士。現在、三輪亮寿法律事務所所長。一貫して病院側に立って業務を行ってきた。

著書:
・後悔しない医療:インフォームドコンセント法律講座
・MRSA訴訟の概説
・美容医療の法的基礎知識
・薬事法学講座I.II
・個人情報保護法ハンドブックQ&A集
・もしも あのとき:医療過誤判例Q&A

 

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