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医療コラム

実践法律基礎講座 【 “患者クレーム”に強くなる! 】

「鞭打ち症状の長引く患者」初診時の面接 No.53

2010年01月22日

 

◆都心のビルで開業する院長Dの診療所の廊下で転んだ患者から通勤タクシー代として60万円を騙し取られ、長女の皮膚科医が60万円を取り戻すべく、入院中の患者と会って取り戻しの交渉に入った。「60万円支払いの証拠がない」とうそぶく患者に対して、長女は咄嗟の機転で、自分でも不思議に思えるほどの逞しさで「診療所の防犯カメラに写っている。でも、今のところは告訴まではしない」と応じることができた。

◆長女は、弁護士から「深追いするな」と言われていたので、

「今日はこれで失礼します。お大事に」と、さらりと挨拶して辞した。

 長女から経緯を聞いたDは、手放しで喜んだ。

「信じられん、信じられん。お前がな、そんなことができたとはな」

「私も患者さんとの交渉に責任を持たされて、いい勉強になったわ」

「まったくだ。本当に逞しくなった」

◆「ところで、お父さん。彼から60万円を取り戻せるかしら」

「それは、私のほうこそ聞きたいよ。彼と交渉したのは、お前なのだから」

「そういうことではなくて、彼の財力の問題よ。取り戻せなかったら、お父さんに弁償かしら。私の世間知らずのせいで、60万円もお父さんに払わせたのだから」

「まさか。うーん」

 Dはしばらく考え込んで、

「そうだ。これは、お前にかかった教育費ということになるかな。同時に、私のための授業料でもあると言えそうだな」

◆長女は、平次郎左衛門弁護士への報告を兼ねて、4度指導を仰ぐことになった。

「ほう、若先生も、なかなかやりますな」 弁護士はにこやかに頷いた。

「いいえ。まだまだです」 長女は真顔を崩さなかった。

「この後、どのようにして60万円を取り戻したらいいのですか」

「最終的には裁判です。勝訴するためには、60万円を払った証拠が必要です」

◆長女の気難しい顔が一気に弾けた。素早く手提げ鞄を取り出すや、それを高々と差し上げて大声で叫んだ。

「証拠なら、ここにあります」

「えっ! なんと・・」

「先生のご指示通り、録音してきました」

◆長女は、鞄の中から、小型録音機とともに録音テープを起こした1枚の紙片を弁護士の前に置いた。

弁護士は紙片を一読して、納得顔になった。

そこには、「あの事故で会社をクビになった。あの60万円は、2か月分の給与だ。もらって当然だ。何も悪いことなんかしていない」と患者の言葉が記録されていたのだ。

◆「やりましたな。裁判は、勝つには勝でしょう。でも・・」

「でも・・?」

「下手をすると、労力と時間をかけて勝訴判決をもらっても、判決がただの紙っぺらになる恐れがあるということです」

「・・」

「相手が無資力、つまり払う力がなかったら、強制執行をかけても何もとれない」

 弁護士が悪戯っぽく笑った。「その上、私への弁護士費用もかかりますよ」

  

コラム著者: 三輪 亮寿 (みわ りょうじゅ)
久智行(医師・博士(医学)・法務博士(専門職))

三輪亮寿法律事務所 弁護士・大分大学医学部 講師

経歴:
1955年(昭和30年)東京大学医学部薬学科卒業。
製薬企業の研究所に勤務後、弁護士。現在、三輪亮寿法律事務所所長。一貫して病院側に立って業務を行ってきた。

著書:
・後悔しない医療:インフォームドコンセント法律講座
・MRSA訴訟の概説
・美容医療の法的基礎知識
・薬事法学講座I.II
・個人情報保護法ハンドブックQ&A集
・もしも あのとき:医療過誤判例Q&A

 

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