医学生・研修医を応援するサイト 医師学

医学用語略語辞典など配信中!

医療コラム

【 研修医・医学生に知って欲しい医療の進歩と話題 】

新薬開発の勧め

2009年12月21日

 

1.はじめに

 前報で、ナミ新薬剤の化学構造の修飾他について、特許情報と文献情報を用いて解説した。今回は、これをもう少し、総合的に紹介する。

 

 ナミ新は、アカデミックな表現では、Best-in-Class(上市後に市場へ広く浸透が見込める)となる。ピカ新は、First-in-Class(これまでに無い作用機序で新しい薬理活性を示す)と述べられている(※1)。

しかし、適当な日本語での表現が無いので、これからもナミ新、ピカ新を用いる。

 

 ピカ新は研究に従事している者なら誰もが望む目標では有るが、計画的には得ることができないので、どうしてもナミ新をターゲットにせざるを得ない。

製薬企業の研究者は「何を今さら」と不審に思うかもしれないが、これからは、製薬企業の研究者以外でも行える新薬開発のアプローチを紹介する。これは既存の製薬企業は無論、製薬企業以外からの参入が可能となることを示す。

 

 

2.新薬開発の研究のパターン

 研究をするためのターゲットを決定しなければならないが、ナミ新を期待した研究であれば、対象とする薬効と化学構造群は既に決定していることであろう。

 

 

2-1.多数のスクリーニング用化合物の合成

 combinatorial chemistry(コンビナトリアルケミストリー)は、ある構造を有する化合物(化合物ライブラリー)を合成するため、その化合物に到達する諸反応を記録したケミカルライブラリーを用いて合成する方法である(※2)。

その手段として組み合わせ理論を用い、人手での合成では考えられない一研究者当たり年間数千から、数十万の化合物を合成できるようになる。

従来の方法では、スクリーニングする化合物に到達するには、少なくとも3~5工程の化学方程式を経なければならなかった。1化合物/週程度の日数が必要であった。

ここ10年の成果として判ったことは「創薬の合成化学としては、完全に総てがこのシステムで行うことはできない」ということである。特にナミ新のような、ピカ新の化学構造に似た構造を残し、周辺の部分構造の修飾をするには、あまり適していないらしい。

しかし、スクリーニングに供するための途中までの化合物の合成(原料の調達)はできるのである(※3)。

 

 

2-2 コンビナトリアルケミストリーと生物作用データとの合体

 NIHにおいては、化合物ライブラリーと初期スクリーニングを合体(merge)させたデータベースの国家的な活動として、創薬研究の初期段階を公的に施設化することを始めている(※4)。わが国でも同様な試みを始めようとしている。このような化学構造/生物活性の相関が、容易に入手できれば初期スクリーニングは迅速に処理できる。

さらに、各種のスクリーニングの試みが、最近報告されており、これらのスクリーニングで作用を認められれば、特許取得は可能になる。

 

 

2-3 「脂肪肝メダカ」の利用

 普通のメダカに脂肪分の多い餌を与えて、ヒトの脂肪肝と同じような病態を発症させることを、東京医科歯科大と山口大のグループが成功させた。

メダカに通常の数倍の脂肪分を含む餌を与え、肝臓の変化を調べた。すると肝臓は、正常の3倍の重さになった。また肝細胞が壊れる時に出る酵素も2倍以上に増えた(※5、※6)。

諸検討の結果、ヒトの非アルコール性脂肪性肝炎と同様の状態と判断された。

 

 脂肪肝を対象とする薬剤の開発であれば、本試験は、初期スクリーニングに好適であろう。

このようなIn vivoのスクリーニングは、説得力があり、特許出願の際、有用性の立証には成り得るだろう。

 

3.アウトソーシングの利用

3-1 化合物合成の代行

 必要とする化合物の合成を代行する企業がある。製薬会社の研究所に所属していた者なら周知である。つまり試薬を販売している企業である(※7)。

和光純薬は生化学・抗体・免疫・遺伝子等の研究試薬、環境分析・有機合成試薬及び臨床検査薬の提供、化成品の受託製造を行っている(※8)。

製薬企業では合成を専門とするスタッフが担当するが、突発的に発生する化合物の合成は、このような会社にアウトソーシングすることもある。

 

 

3-2 スクリーニングの代行

 MDS Pharma Service社は、研究開発に関する問題について、初期ステージからPhaseⅡまでに渡って請け負う会社である。主な仕事としては、

・化合物スクリーニングとそのまとめ(Molecular Screening and profiling)

・細胞と薬理作用(Cellular/Functional Pharmacology)

・安全性とその評価(Drug Safety Assesment)、他を行っている。

多分、これらの項目に関し、先ず、クライアントと詳細に打ち合わせをして、要請に応じたテストをしてくれるのであろう。また、項目には「早期心臓への安全性の総合評価(Early Cardiac assessment)」などもあり、特定の臓器に対し、特化したテストも行われるようである。

このような会社が、世界中で企業化され、スクリーニングテストや、特定内容に特化したテストなどを行っている(※9)。

 

 

4.まとめ

 製薬企業が保有する研究するための陣容と設備を揃えるとなれば、かなりの費用が必要である。

主要な薬効に対しては、ほとんどの製薬企業の研究機関において、合成、バイオアッセイ、毒性、安全性、催奇形性、発癌などをテストする研究グループが存在している。それらは総数で、百数十名から数千名を擁しているだろう。年間研究費/研究者で割れば、一人当たりの経費が算出されるが、多分、5000万円/ヒト/年を下回ることは無いだろう(人件費も含む)。よって、総ての研究を、初期段階から検討をすれば、Negative Data、1件当たりの経費も、相当な額になる。

「新薬開発の勧め」では、このような研究所を作ることを勧めるのではない。以前とは異なって、今日では、情報を駆使すれば、かなりのところまで研究開発の方向性と具体的な化合物と薬効に絞ることが可能である。膨大な維持費と人件費を必要とする研究所を作らなくとも、研究は情報の駆使で可能となる。これを勧めるのである。

 

 そして、情報が得られないであろう化学構造群と、その生物活性のデータは、徹底したアウトソーシングを行うようにすれば、特許を取得する段階までに、薬効と化合物群を絞ることは可能となる。但し、薬効と化合物群をそこまで絞るには、情報源の確保が必要となる。特許情報と、文献情報は、必須情報となる。

特許は、既に以前のような国別ではなく、World Patentとなっており、これを丹念に精査すればよい。

文献は、二次情報を使えば良い。そこから必要な文献のみを、オリジナルに関してはコピーを取れば良い。

このような使い方をするなら、Derwent Drug Fileが、毎日査読するには適していると思われる。

なぜなら、webで利用ができ、年間52,000件の文献情報が加工されて提供されるからである(1964年より約170万件が蓄積)。化学構造のイメージ、医薬品開発、合成、評価、製造、用途などを収録している雑誌1200誌が掲載されているので、いちいちオリジナル雑誌を査読する必要が無いのである(※10、※11)。

 

 

5.おわりに

 ベンチャービジネスがこのような以上で紹介した活動を展開することが可能となる。

それも製薬会社の研究者一人分程度の費用以内で、人件費と、情報購入等の経費が賄えるだろう。

留意すべきは、製薬会社の研究がこれに取って代わるわけではない。

このような仕事をする小規模なベンチャービジネスによって、まとめられた薬効と化合物群を収集し、そこから以降の研究を製薬会社が行うのである。

つまり製薬会社の研究と、ベンチャービジネスの調査が上下の関係で、仕事をするのである。

 

 ベンチャービジネスは、初期スクリーニングで特許を取得し、それを、製薬会社が導入し、それ以降の検討を行う。やがては、臨床検討を経て、市販されるようになれば、もっと、新薬の申請数は増えるのではないだろうか。

 

 小回りの利きにくい大企業の研究開発陣営と、小回りが利くベンチャービジネスの間で、未完の研究テーマのやり取りをして、それを大企業が、商品とする。

 

 参考までに付言すると、現在、製薬会社の大手各社の主力商品は、米国での物質特許切れが間近に迫っている(※12)。例えば、武田薬品では、タケプロン(消化性潰瘍治療剤、特許切れ2009年11月)、アクトス(糖尿病用剤:特許切れ2011年11月)、ブロプレス(高血圧用剤:特許切れ2012年)等が挙げられる。

アステラスでは、プログラフ(免疫抑制剤:特許切れ2008年4月)、ハルナール(排尿障害治療薬:特許切れ2009年10月)である。

エーザイでは、アリセプト(アルツハイマー型認知症用剤、特許切れ2010年11月)、パリエット(消化性潰瘍治療剤、特許切れ2013年5月)。

第一三共では、オルメテック(高血圧用剤、特許切れ2016年4月)、クラビット(感染症用剤、特許切れ2010年12月)。

塩野義製薬ではクレストール(高脂血症治療剤、特許切れ2016年9月)などが挙げられる。

 

 ベンチャーが提供した薬効と化合物群(具体的には特許の提供)が、やがてはこのような場合の研究を補助するために用いられる時が来るのではないだろうか。

(注:武田では、特許切れの対策に、国内で新薬を発売することを表明した。日経2009年12月9日)

 

 情報を駆使したベンチャー会社と、大陣容と設備で、着々と、新薬を開発する大企業との協調で、新薬が一つでも多く上市され、人々の疾病対策に貢献することを願っている。

 

 

引用文献

※1、技術の未来を展望する戦略ワークショップ「低分子量化合物による生体機能制御」報告書 科学技術振興機構研究開発戦略センター 平成19年12月

 

※2、コンビナトリアルケミストリー Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B1%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC

 

※3、有機化学情報誌“Wako Organic Square”Vol.8 (2001.9) http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/journal/org/pdf/org08.pdf

 

※4、コンビナトリアルケミストリーとケミカルバイオロジー:創薬の新しいパラダイムに向けて ―Osaka University http://www.osaka-u.ac.jp/ja/seminar/info/2009/09/294

 

※5、「脂肪肝メダカ」できた 創薬の研究動物として期待―サイエンス asahi.com(朝日新聞社) http://www.asahi.com/science/update/1206/TKY200912060152.html

 

※6、メダカの内臓(心臓、腸、腎臓、肝臓、胆嚢、膵臓、脾臓、エラの顕微鏡写真) メダカ博物館 http://medaka.ns-it.net/museum/naizou.html

 

※7、有機化学情報誌“Wako Organic Square”Vol.8 (2001.9) 固相有機合成用担体「ランタン」専用アッセンブリキットシリーズ http://www.wako-chem.co.jp/siyaku/journal/org/pdf/org08.pdf

 

※8、和光純薬工業 Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%92%8C%E5%85%89%E7%B4%94%E8%96%AC%E5%B7%A5%E6%A5%AD

 

※9、Quality On Time CRO MDS Pharma Services http://www.mdsps.com/

 

※10、Ovid Derwent Drug File 丸善株式会社 http://www.maruzen.co.jp/home/irn/econtents/catalog/ovidsilver/db/catalog/DerwentDrug_main.html

 

※11、Drug File 製品概要 トムソン・ロイター サイエンティフィック ‐特許 文献 引用文献 知的財産 医薬 原薬 工業規格 ‐Thomson Reuters Scientific ISI http://www.thomsonscientific.jp/products/df/index.shtml

 

※12、医薬品業界2010年の衝撃 酒井文義 第1章 2010年問題と医薬品業界の挑戦(2009)

 

※13、武田、5年ぶり国内新薬 抗がん剤など3種 来年度に集中投入 主力薬特許切れに備え 日本経済新聞 2009年12月9日

 

コラム著者: 鈴木 重量(すずき しげかず)
鈴木 重量(株式会社エーアイビジネス 代表取締役)

株式会社エーアイビジネス 代表取締役

 経歴:

・1957年:大阪市立都島工業高校工業化学科卒。
・1957年:武田薬品 中央研究所へ入社。
・1963年:農薬用殺菌剤セルタを開発、プロジェクトとして社長表彰を受ける。
・1970年:我が国最初のWORD MACHINEを用いたTEXT DATABASEの検索システム(Auto-Code)を開発。
・1973年:我が国で最初のExcerpta Medica(EMBASE)を導入。
・1979年:計量文献学を開発し日本科学技術情報センター(現在の科学技術振興機構 文献情報事業本部)より丹羽賞を受賞。
・1983年:合成セファロスポリン「パンスポリン他」の開発でプロジェクトとして社長表彰を受ける
・1985年:日本科学技術情報センター大阪支所より地域活動貢献により受賞。
・1987年:全社的文献情報検索システムを構築しプロジェクトとして社長賞を受ける。
・1989年:武田薬品を円満退社。

    同年:(株)エーアイビジネスを設立。

 (論文発表は多数有り省略)

 

ページトップへ