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医療コラム

Doctor's Essay 【 研修医・医学生のためのキャリア形成 】

第十四回 謝礼はゲンキン(厳禁 or 現金)

2010年01月21日

 

 読者諸兄諸姉に残念なお知らせがある。1年間続いて来た本連載は今回を以て、発行元の都合により、しばらく休載となる。
 
 前回(第十三回)の続きとして、理系と文系との違いについて論を進め、さらに、患者が医師を疑う(また医師が患者を疑う)こと(患者医師間の信頼関係)について述べる、と記していた。また、第四回では、医師不足に関する、狭義の不足の問題と偏在の問題について、前者を絶対数の不足と相対数の不足に分け、さらに相対数の不足を形式的な不足と実質的な不足に細分し、後者を診療科別の偏在、開業医と勤務医の偏在、開業医の開業地の偏在、勤務医の勤務先の偏在に分けて、今後詳述したい、と記していた。これらについて、読者諸兄諸姉に対して、しばらく約束を果たせないことは大変申し訳無く、たとい他の紙面においてでも、連載の続きが書けるならば、読者諸兄諸姉にはお知らせしたいと、思っている。
 
 また、八ッ場ダムの話やデフレーションの話について、マスコミの類型的な報道や評論家の大衆迎合的なコメントとは異なる、筆者の管見を記したいと思っていた。しばらく休載すると、時機に後れてしまうであろうことが残念である。これについて、真理を書くには時機など関係無い、と反論されるかもしれないが、結果が表面化してから記したのでは、何度も述べているように評価する側から悪く解釈され、後出しジャンケンのように受け取られてしまう虞があるから、時機に後れない内に書きたいのである。そこで、ほんの少しだけ触れておく。被害者ぶった、一見弱者を装う者(無意識のあるいは意図的な、判官贔屓あるいは経済的利益を得ようとする協力者を含む)の厚かましく理不尽な経済的利益を追求するさまは、個別の医療機関でも見かけることは多く、一方で、日常感覚からは物価は上がっているように感じるにも拘わらずデフレーションであると主張することで(財政赤字にある国にとって都合の良い)インフレーションを誘導している(と筆者には思える)、強者としての国家の政策とそれに踊らされるさまは、社会的な医療政策でも見かけることは多い。ただし、今回はこれらについては詳述しない。
 
 本連載は、形式的には専門医から医学生・研修医への手紙という形をとっているが、実質的には患者にこそ読んで貰いたい医療の現状である。ところが、執筆者(本連載では筆者)が医師免許を有していると、何度も述べているように評価する側(ここでは読者)から悪く解釈され、医療の現状ではなく、第九回で述べたように自分(または、私的なあるいは私人が属している集団や地域)の(経済的)利益のために記している(ここでは医師が医師の立場から医師の(経済的)利益のために都合の良い主張(言い分や言い訳)をしている)、と類型的に勘ぐられる虞がある。敢えて述べるならば、本連載を読んだ医学生や研修医が、中医を目指せば自己の利益に成ると共に患者にも喜ばれると考えて、上医ではなく中医を目指す可能性はあるが、それは本連載の本意ではない。筆者は、医師の立場から本原稿を記してはいるのではなく、自分が患者だったならばどのような医師を受診したいかを、医師の知識を有した上で、述べてきた。(自分の病気は自分が一番良く分かる、という患者をしばしば見かけるが、第十三回で述べたように知識が無い状況では分からないことが多いのである。)
 
 連載が続いていたならば、医療を巡る様々な現状を示した後で、それらの一般的な改善案を述べ、さらにその後に、改善前の状況下での危急の際の次善の対応を述べるつもりであった。ところが上述したように休載となるので、あまりにも唐突ではあるが、しばしば質問される、医師への謝礼について、筆者の管見を記しておきたい。
 
 以下は、筆者の知人から筆者宛ての電子メールと、それに対する筆者の返信である。筆者がこのような返信をするに至る経緯について、連載の途中を埋める形で(第十三回までの連載と第十四回の謝礼の話との間には大きな飛躍があるため)いつか書きたいと思っている。
 
久先生
大変にご無沙汰しております。×××の○○です。
(中略)
ところで、本日は全く別件で、先生にインフォーマルにお聞きしたいことがあり、メールを認めております。
実は小職の母親が2月末ごろに某私立医科大学付属の病院(本院ではなく分院)で甲状腺がんの手術をうけることになったのですが、「手術を受けるとなると主治医や執刀医に謝礼がいるのだろうか?」と心配しているのです。
今まで幸か不幸か、我が家の周りでは入院して大きな手術(甲状腺がんの手術が大きな手術かどうかは議論があるかもしれませんが)を受けた者がいないので、全く状況がわかりません(そもそも、謝礼というのはやはり慣行として存在するのか?存在するとすれば、誰にどのタイミングで幾らぐらいか等)。
久先生が皮膚科のご専門医でありご多忙であることは十分に承知をしておりますが、周りでお耳にしたことのある範囲で何か教えていただけることがあれば、幸いです。
不躾なお願いで恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
○○
 
○○様
第1.
御母堂様が「がん」との事、さぞ御心痛の事と拝察致します。
第2.
小生、皮膚科医ではございますが、病理学教室に所属して居りました際、たまたまその研究室のボスが甲状腺を専門にしておりました。
既に○○様は御存知と思いますが、甲状腺がんには、髄様癌、濾胞癌、乳頭癌、とあり、約8割を占める乳頭癌の進行は極めて遅いです。
しかし、手術をする、というのであれば、その他のタイプなのかもしれませんね。
第3.
さて、本論ですが、
1.
結論を言えば、というか、小生の父が手術をした際には、小生は謝礼を包みました。
2.
たしかに「謝礼厳禁」とされている病院が多く、
(1)謝礼を受け取らない、
(2)謝礼を受け取っても、治療を差別しない(受け取る理由は「患者家族の気持ちの満足のため」と言う)
という方々も居ます。
これらに対して
(3)謝礼を受け取り、治療を差別する、という人が居るのも事実です。
3.
謝礼に関しては、さまざまな考え方があります。
世間一般では、(1)を高く評価し、(2)を次善と評価し、(3)を非難する傾向にあります。
なぜこの順番かについては、マスコミの論調などで明かなので、ここでは記しません。
そして、医師の中にも、この考え方(A)をする者もおります。
しかし、
小生を含め、これらとは異なる考え方(B)の医師もおります。
Bの考え方は、(3)を高く評価し、(1)を次善とし、(2)を非難します。
その理由ですが、
まず、(3)を高く評価する根拠として、
・保健診療に比べ、自由診療は極めて高額のため、ほとんどの人は保健診療を受けることしかできない。
・保健診療では、治療レベルがスタンダードである。
・スタンダードというのは、良い面もあるが、悪い面もある。
・つまり、安価で格差なく受けられるのは良い点ではあるが、もし非常に手厚い医療を受けたいと思っても、それが選択できない。
・たとえば、手の小指と足の親指の重要度について、サッカー選手と、ピアニストとでは、その人によって全く異なる。
・ピアニストなら、手の治療なら100万円を掛けても良いだろうし、足ならほどほどの治療で良いかもしれない。
・サッカー選手なら、反対であろう。
・上記(つまり、エコノミークラスか、ビジネスクラスか、ファーストクラスか)を患者が自分の重要度に応じて選べない。
ということです。
(1)を次善に評価するのは、医は平等に、との考えによる姿勢だからでしょう。(しかし(3)のように選択できない。)
(2)を非難するのは、「患者の家族の気持ちの満足」の根拠は、
そもそも、医師が謝礼を受け取ることで、患者である自分の家族が、なんらかの特別の配慮をしてくれる、という事を期待してのことです。
にも拘わらず、なんの配慮もしないのに、謝礼だけ受け取るのは、無茶苦茶だ、と非難する訳です。
4.
一般論を書いてしまい、申し訳ありません。
さて、ここで○○様の場合、○○様の主治医、執刀医、は、上述の、(A)なのか、(B)なのか、が問題となります。
これを見分けることが難しいのです。
というのも、
謝礼を提示して、謝礼を受け取らない場合は、(1)つまり(A)であることが分かります。
しかし、謝礼を提示して、謝礼を受け取った場合は、(2)つまり(A)なのか、(3)つまり(B)なのか、判別できないのです。
((B)の考え方からは、この判別できなさの点からも、(2)を非難します。)
5.
となると、謝礼を提示する場合は、(2)つまり(A)となって、「金をドブに捨てる」覚悟が必要です。
すると、なかなか高額は難しくなります。
具体的な金額として、小生が受け取ったことがあるのは、2万円~20万円です。
しかし、主治医、執刀医、の2人を考えると、家族の出費は、この2倍となります。
(小生は決して裕福ではないにも拘わらず、父の手術の際に30万円ずつを包みましたが、医師同士ということで(2)つまり(A)ではない事を確認した後なので、安心して30万円を包むことが出来ました。)
6.
謝礼を手渡す時期ですが、入院後、できるだけ早期が良いと思います。
その理由は、もし、(3)つまり(B)ならば、謝礼を手渡した直後から、○○様の御母堂様への待遇が変わるからです。
ただし、待遇が変わるといっても、急に部屋が変わるとか、言葉遣いが変わるのではなく、
外見上は、主治医回診に来る順番が早くなる、とか、病室を訪れる回数が増えるなど、微妙な差異だと思います。
しかし、いずれにせよ、心に留めておいて貰えれば良いのです。
(縁起でもない話で申し訳ないのですが、たとえば)状態が急変したときに、
主治医や執刀医に、「しばらく様子を見よう」ではなく、「ねんのため、すぐに対応しよう」と思わせたら、謝礼の意味はあるのです。
7.
退院後のフォローアップですが、これは、通常の御中元・御歳暮程度(各3千円とか5千円とか)で良いと思います。
8.
なお、謝礼を渡す時は、その医師と2人きりの時にして下さいね。
看護婦の前では受け取れないし、
他の医師がいる場合も受け取れません。
さらに、主治医に執刀医の分を預けたり、執刀医に主治医の分を預けるのも、ダメです。
第4
他に疑問点があれば、なんなりとどうぞ。
小生でお役に立てることがありましたら、よろこんで。

 

コラム著者: 久 智行 (ひさ ともゆき)
久智行(医師・博士(医学)・法務博士(専門職))

医師・博士(医学)・法務博士(専門職)・皮膚科専門医

経歴:
1965年大阪府泉佐野市生まれ
ルイジアナ州立大学、米国陸軍Detrick要塞内先端バイオサイエンス実験室、米国国立衛生院国立がん研究所を経て帰国。
Lancet, Nature, EMBOなどに論文発表
日本比較生活文化学会優秀論文賞受賞、NCI on the spot award 受賞
Ecpeptional ability を有する者として米国永住権授与
東京大学特任講師、東京高等裁判所専門委員などを歴任

著書:
・Valuing Intellectual Property in Japan, Britain and the United States(Routledge, Andover, Hants, UK, 2004)
・Le Cancer en Afrique: De l'epidemiologie aux applications et perspectives de la recherche biomedicale(National Cancer Institute, Paris, France, 2006)
・ITから子どもの脳を守る ― 人間脳を育てる(コスモヒルズ, 東京, 2006)
・皮膚科診療カラーアトラス大系(講談社, 東京, 2008)

 

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