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医師数抑制政策の推移と方向の転換について

2009年01月30日

 
 昨年の11月4日に文部科学省より今年度の2009年(平成21年)医学部入学定員の増員計画について公表され、2009年医学部入学定員数は今年度より693名多い8,486名と発表されました。
 この定員数には文科省管轄外の防衛医科大学校(防衛省管轄)は含まれておりませんので、来年度は防衛医大を含めた全80医学部の総定員は約8600名となり、1980年代前半のピーク時の8,340名を上回る規模での増員となります。


・「一県一医大構想」による医師数の拡大
 右の図は1955年(昭和30年)から医学部定員数の推移になります。戦後、学制改革により、戦前の医科大学、医学専門学校は新制大学に移行しました。その後医学部新設もあまり行われず、医学部定員は緩やかに増加していきましたが、1974年(昭和48年)に当時の田中内閣時に「一県一医大構想」が掲げられ、1970年代にかけて医学部の新設ラッシュが起こりました。1979年(昭和54年)沖縄県の琉球大学に医学部が設置されたことで一県一医大構想は実現され、医学部増設に伴い一気に定員数は拡大し、1985年(昭和60年)は8,340名の募集定員まで拡大しました。

 

 

 

・医師抑制政策の開始
 80年代に入ると、これまで拡大を続けてきた医学部定員について見直しの動きが出始めます。1982年(昭和57年)に「今後における行政改革の具体化方策について」(鈴木内閣)閣議決定され、その中では医師・歯科医師が過剰とならないよう適性な水準とするよう検討を開始するとされました。
 その閣議決定に伴い1986年(昭和61年)に旧厚生省、文部省において医学部定員を10%削減を目指すことが決定され、順次削減を行い、4年後の1990年(平成2年)には7,750名にまで減少しています。
 さらに橋本内閣時の1997年(平成9年)に「財政構造改革の推進について」閣議決定され、医学部定員の更なる削減に取り組むこととされ、定員数も7,695名まで削減されました。


・医師不足により新医師臨床研修制度の見直しへ
 医師抑制策による医師不足は地域医療の格差や診療科格差(特に小児科、産婦人科の不足)を招く結果となりました。そうした格差を是正するために、厚生労働省は新医師臨床研修制度の見直しを始めました。
 従来研修1年目は内科、外科、救急部門の必修でしたが、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療も1年目より必修可能としました。特に医師不足が深刻化している小児科、産婦人科及び地域医療を1年目より必修できることで、将来的にそれらを専門とする医師を増やしていくという目的があります。


・過去最大の医学部定員増員と今後の対策について
 医師不足による地方医療の崩壊が現実となり、医師確保のため2006年(平成18年)に「新医師確保総合対策」として医師不足が深刻な10県及びへき地医療を担う自治医科大学について増員が認められ、さらなる増員の必要性から2007年(平成19年)には「緊急医師確保対策」により全都道府県で容認されることとなり、2008年(平成20年)6月「骨太の方針2008」(福田内閣)で早急に医学部定員を過去最大とすることが閣議決定されました。
 平成21年以降、数年間は医師数の増員を行っていくことが考えられますが、将来的に医師数をどうするのか、また現状、臨床以外に各種の作業負担等をどう緩和していくのかなど、さらに議論を進め将来的に医師及び患者の双方が不利益を被ることのない形としていくことが早急に望まれます。


<医師抑制・拡大に関わる主な議論の推移>
1982年(昭和57年)
「今後における行政改革の具体化方策について」閣議決定
→医師及び歯科医師については、全体として過剰を招かないように配意し、適正な水準となるよう合理的な養成計画の確立について政府部内において検討を進める

1986年(昭和61年)
旧厚生省「将来の医師需給に関する検討委員会」
→平成7年を目途として医師の新規参入を最小限10パーセント削減すべきとする。
旧文部省「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議」最終まとめ
国公私立を通じ、医学部10パーセント程度抑制することを目標として措置を講ずべきとする。

1997年(平成9年)
「財政構造改革の推進について」閣議決定
→大学医学部の整理・合理化も視野に入れつつ、引き続き、医学部定員の削減に取り組む。あわせて、医師国家試験の合格者数を抑制する等の措置により医療提供体制の合理化を図る。

1998年(平成10年)
旧厚生省「医師の需給に関する検討会」報告書公表
→削減目標の未達成部分の達成を目指すことを確認。

1999年(平成11年)
旧文部省「21世紀医学・医療懇談会」第4次報告公表
→医学部の入学定員について、現状よりさらに削減することが必要であり、削減目標の達成を目指すことが適当。また入学定員の削減は国公私立大学全体で対応すべき

2004年(平成16年)
新医師臨床研修制度の開始


【この頃から医師不足が表面化し、医師不足報道がなされるように】
2006年(平成18年)
厚生労働省「医師の需給に関する検討会」報告書公表
→医学部定員の増加は、中長期的には医師過剰をきたすが、人口に比して医学部定員が少ないために未だ医師が不足している県の大学医学部に対して、さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として定員の暫定的な調整を検討する必要がある。

2006年(平成18年)
「新医師確保総合対策」
→医師不足が特に深刻な10県及び自治医科大学において、平成20年度からの最大10年間、最大10人の医師養成数の増を容認

2007年(平成19年)
「緊急医師確保対策」
→各都道府県において、平成21年度からの最大9年間(公立大学は平成20年度からの10年間)に限り、最大5人(北海道は15人)の増員を容認。また医師養成総数の少ない県(和歌山県-和歌山県立医科大学、神奈川県-横浜市立大学)において、平成20年度からの20人までの恒久的な増員を容認。

2008年(平成20年)
「経済財政改革の基本方針」(骨太の方針2008)閣議決定
→早急に過去最大程度まで増員するとともに、さらに今後の必要な医師養成について検討する。


出所:文部科学省「医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」資料より作成


 

(川瀬 貴之)

 

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