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医療コラム

【 研修医・医学生に知って欲しい医療の進歩と話題 】

医療面接の重要性と、その向上のための検討(模擬患者に思う)

2009年06月12日

 

1.はじめに

 「面接」とは、人と人とがコミュニケーションを図るにあたって、最初に行われる行為である。「就職面接」などのように固苦しく考えられがちになるが、人と人とが遭遇する最初の場である。
次に会話を交わしてコミュニケーションが生まれる。「寡黙な人」、「饒舌な人」などの違いで会話の量は、まちまちではあるが、コミュニケーションは成立する。
これと些か違うコミュニケーションが医師と患者の間で行われている。両者が、対等に会話をすることが理想であろう。しかし医師は患者の病状を把握するため問診、触診などだけでは知ることができない様々な情報を患者に尋ねる。その際、両者における「医学知識の差」と「情報量の格差」が大きな垣根となる。患者の大半は、自主的に病状を伝えることが不可能である。本来、伝えるべき側なのに、それを伝えるための専門用語を知らない。そこで、聞くべき側である医師が、あらゆる質問を提示しながら患者の情報、及び病状を誘導する。
我々が日常で交わしているコミュニケーションと比べると、本末転倒と言えるだろう。しかし医学界では、これが通例である。医療の現場では、コミュニケーションが上手く図れず、診断行為がしばしば円滑に進まず、知りたい情報も不十分となってしまう状況が多く見受けられる。


2.模擬患者とOSCEの効果
 「医療面接によって、医師と患者との関係を向上させる」ということや「情報収集量を増加させる」という研究は、欧米では盛んに行われているが、日本では、先行している病院を除いて、ほとんど行われていない。
それは文化的背景の相違や、医療システムの相違などが原因であろう。
そこで注目されるのが、医師、及び医学生の臨床能力(臨床実技)を客観的に評価するために開発された評価方法であるOSCE(Objective Structured Clinical Examination)」である。
これはHardenが1975年に紹介したものである。
認知領域(知識)、精神運動領域(技能)、情意領域(態度)の評価に優れた評価法で、日本では医学教育で1993年に初めて導入された。2005年度には、医学部全国共用試験において実施されている。
これまでの医学部教育は、知識重視の教育が偏重され、判断力・技能・態度などといった基本的な臨床技能の教育は不十分であった。OSCEは全ての受験者が同じ課題を、同じ条件のもとで取り組むものである。評価者も同一の評価基準で評価することが可能で、非常に信頼性の高い評価法といえる。そして、試験結果のフィードバックによる学生、及び教員への教育効果や、学生が患者役(模擬患者)を演じることによる教育効果といった多くのメリットがある(※1)。


 OSCEは、幾つかのステーション(Station:St.)があり、各St.で臨床能力を評価するために課題が設定されている。受験者は順にそれらのSt.を回って課題を解くが、その過程で臨床技能や態度が評価される。
臨床家は、認知領域(知識)の獲得だけでなく、技能と態度を兼ね備えねばならず、看護師、理学療法士、作業療法士などのコメディカル教育でも、既に取り組みが行われている。
全国の6ヶ所の医学部・医科大学においてOSCEを受講した第4学年と、第5学年の計1,527名を対象に模擬試験を行った研究がある。その結果、自由質問法、心理社会的アプローチ、受療行動情報他で、患者から得られる情報量を増加させたことが確認されている(※2)。


 川崎医療福祉大学では、OSCEを先行して取り入れている。同大学の感覚矯正学科視能矯正専攻の4年次生を対象として調査したところ「多くの人的資源と時間を要するという難点はあるが、経験の浅い視能訓練士に、評価者の機会を与えることで卒後教育にも有用であった」と報告している。
ただ、懸念されるのは、このテストを受けた学生の33.7%が、OSCEには否定的であった。その理由として、
(1)このテストは抽象的過ぎる。
(2)テスト前後の学習がやり難い。
(3)概診の意味が不明である。
以上3項が挙げられた。
実際に、OSCEを体験した15名のうち、課題の流れについて理解できたのは66.7%、理解できなかったのは33.3%であった(※3)。


3.模擬患者に求められるリアリティ
 岐阜大学医学教育ワークショップでは、模擬患者に求められるリアリティについて研究している。
模擬患者ワークショップの構成員は、
(1)教育の中心に据えられるべき学生(学習者)
(2)教官(模擬患者を用いて教育する人)
(3)模擬患者(用いられる教材)
以上の3者で、成り立っている。


 これに参加した平均的な学生の感想から、模擬患者のリアリティに欠ける要因として、
(1)診断名からかけ離れた印象を与える模擬患者であった。
「敗血症でありながら、身体的にきつい様子がなく、平然としすぎる」
(2)模擬患者の心理社会的背景から発した言動があった。
「医師の話を聞かずに一方的に喋りまくる、こんな患者はいない」
(3)教官からの指示により、自分からはほとんど口を開こうとしない模擬患者であった。
「実際に臨床実習で接した患者の大部分は、自分の病気のことはもっと積極的に良く喋った」
以上などから、実際の患者と接した経験のある学生達は、模擬患者の対応から、実際の患者の応対と異なることを指摘している。
これらから、リアリティを求めるには、現状の医療面接教育(Medical Interview Training:MIT)における、教官と模擬患者を繋ぐ、医療面接教育コーディネーターの必要性が示された。
MITコーディネーターは、
(1)教官が設定する学習目標を十分に把握する。
(2)模擬患者から絶対的に信頼されるに足る、細心の準備作業をする(模擬患者は、医学生がその思考過程に沿ってあらゆる角度から繰り出してくる質問への答えを、与えられていなければならない)。
(3)模擬患者を心理的に演出する。
以上の役割は、本来ならば教官がするのが望ましい。
しかし、今の医療面接教育の現場では、ここまでを要求するのは無理だと思われる。実に手間と時間のかかる作業であり、カバーしきれない部分が模擬患者へのしわ寄せとなり、リアリティに欠ける要因になる。
模擬患者は、MITコーディネーターと共に患者像づくりの作業をすることによって、その患者に成りきっているという自信を得ることができる。それによってもたらされたリアリティこそが、医療面接の場面に臨場感を持ち込み、学生と模擬患者を真剣に対峙させるだろう(※4)。


4.OSCEを実施後の学生のアンケート
 日本大学の松戸にある歯学部は、OSCE実施直後に模擬患者を対象にアンケート調査を行った。
模擬患者は歯学部の職員、同窓生が行い、5回のトレーニング(1回につき1時間30分のロールプレイと模擬OSCE)を行った。
そして、診査者に対するアンケートの結果と模擬患者の回答との比較検討を行った。
結果、診査者では受験者の課題のでき具合について「予想以上にできていた」という回答割合は「医療面接(診査者62.5%)」、「ブラッシング指導(診査者72.2%)」「新義歯装着の患者指導(診査者81.8%)」であった。
しかし、診査者と比較して、模擬患者の回答の「医療面接(0%)」が非常に低かった。
課題の時間について、診査者の「ちょうどよい」の回答割合は「医療面接(診査者56.3%)」、「ブラッシング指導(診査者66.7%)」、「新義歯装着の患者指導(診査者95.5%)」で、診査者と比較して模擬患者は特に「医療面接」課題の時間を適切と回答していた。
模擬患者においては、フィードバックの時間の適切性と有用性、課題時間の適正性を評価していた。
しかし、「評価シートと評価マニュアルの内容の、更なるブラッシュアップを行う必要性が認められた」と結論付けられた(※5)。


5.精神医学におけるOSCE
 精神疾患患者に対する面接は、到達目標と、能力の評価方法が不明確となりがちである。よって、精神科医の面接能力には、ばらつきが多いのではないだろうか。


 北里大学医学部精神科では、臨床面接の評価にOSCEを用いて検討を行った。新臨床研修制度や精神科専門医制度が変わろうとしているこの時期に、多少無理をしてでも精神科医間の合議の下、到達目標や評価方法を明確に記載することを図った。結果、「OSCEによる医療面接の評価が、参考になった」と報告している。しかし、この方法を取ってでも「コミュニケーション技術を教えこまないといけない医師が多く生まれている」という切迫した現実があることを認めざるをえなかったという(※6)。


6.内科の診断におけるOSCE入門
 1999年、東京大学医学部の老年病科の大内尉義教授を中心に、内科診断学実習改革と、臨床診断学実習導入が図られた。
これは、内科の再編成によって、病棟が疾患・臓器別になったことに由来した。一人の教官が実際の病棟での実習を行うには困難な状況になった。また、教官による教育の格差が広がったこと、そしてOSCEなど、新たな動きに対応していなかったことなどが、改革のきっかけとなった。


 その一環として、内科診断学実習担当教官が集まって「OSCE入門」を導入し、模擬患者(simulated patient:SP)実習を全員に受けさせることなどが決まった。
模擬患者実習は、東京SP研究会(※7)とタイアップして、3年目を迎えた2002年度には、内科診断学実習から臨床診断学実習へと進められ、心血管系診断学実習から、画像解剖学実習に至るまで、21の項目が設けられた。
21項目の内容の総覧は、いわゆる「診断学」の領域を越え、「治療」の範囲に含まれる実習が、幾つかの項目で見られるほどになり「将来は、『臨床医学入門』と呼称する方が適当と見られる」というほどになっている(※8)。


7.小児医療でのOSCEの導入
 東京医科大学小児科においては、母親役の模擬患者から、児の状態を聞きだす形式のOSCEが行われた(対象病状=熱性痙攣、髄膜炎、百日咳)。結果、インタビューの進め方では、poorの割合が減り、著明な成績へと改善が認められたと報告されている。しかし、既往歴に関しては、poorの割合が増加していた。発達歴、家族歴ではpoorの割合が減ってきていた。しかし十分な問診が取れないpoorの率は依然高率であった。
結論として、問診した内容についての評価では、poorな者に関して、1年経過しても、点数の底上げは無かった。その主たる原因としては、疾患モデルを把握しておらず、且つ、小児疾患に全般的知識の欠如が原因と推察された(※9)。


8.おわりに
 既に欧米では、面接で患者の情報を多く取るための手法を開発し、より正確な診断を可能にしている。一方、我が国では、つい最近、OSCEの導入を真剣に取上げ、それと同様に模擬患者の育成にも力を入れるようになった。


 本稿では、各科から、ほんの少数の事例を紹介したに過ぎないが、欧米では、完全に定着している。


 OSCEには、優れた模擬患者が必要である。単に、上司、職員他がその役目を穴埋め的(?)に引き受けるような、安易な考えではできない。同様に、OSCEの設問に関するロールプレイでの観察と評価も安易にできるものではない。


 日本は、医学の分野においても、ハードウエア的な技術の追求には優れているが、今後は、このような、ソフトの分野に関しても、優れた方法を考案する努力が必要であろう。


 三重大学医学部附属病院総合診療部・助教授の竹村洋典氏は、厚生労働省の援助の元「客観的臨床能力評価試験における医療面接評価の根拠」という研究に取り組んでいる(※2)。いずれ近いうちに、我が国でも客観的臨床能力評価試験での医療面接評価が定着するであろう。


引用文献
※1,新連載 OSCEなんてこわくない 第1回 OSCEなんてなぜこわくない? 第2371号 2000年1月17日 医学書院
   
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2000dir/n2371dir/n2371_12.htm

 

※2,「客観的臨床能力評価試験における医療面接評価の根拠」研究
   竹村洋典 厚生労働科学研究費補助金 医療技術評価総合研究事業 平成15年(1‐15)2003

 

※3,視能訓練士教育におけるObjective Structured Clinical Examination手法導入のための試み
   高崎裕子 田淵昭雄 瀧畑能子 岡真由美 難波哲子 米田剛 可児一孝 日本視能訓練士協会誌
   Japanese Orthoptic Journal 第34号(63‐68)2005

 

※4,模擬患者に求められるリアリティの追求 ~必要とされる医療面接教育(MIT)コーディネーター~
   黒岩かをる 岐阜大学医学教育ワークショップ 成果発表
   
http://kuntoh-juku.net/mitpc/imgs/mitc.pdf

 

※5,学生のOSCE実施後の模擬患者に対するアンケート調査
   後藤田宏也 笹井啓史 金田隆 葛西一貴 中村武夫 大竹繁雄
   日本歯科医学教育学会雑誌 Vol.21 No.3(343‐348)2005

 

※6,医療面接と精神医学 高岡等 精神神経学雑誌 106巻 第4号(512‐514)2004

 

※7,SP(模擬患者:Standardized Patient,Simulated Patient)について 東京SP研究会HP
   
http://www.tokyosp-kenkyukai.com/

 

※8,医学教育の新しい展開 卒前教育 内科診断学から臨床診断学へ
   吉栖正生 現代医療 Vol.34 No.7(1605‐161)2002

 

※9,評価表からみる小児医療面接におけるOSCE導入の効果
   河島尚志 星加明徳 松岡健 林徹 小柳泰久 東京医科大学雑誌 第58巻 第6号(785‐788)2000

 

  

コラム著者: 鈴木 重量(すずき しげかず)
鈴木 重量(株式会社エーアイビジネス 代表取締役)

株式会社エーアイビジネス 代表取締役

 経歴:

・1957年:大阪市立都島工業高校工業化学科卒。
・1957年:武田薬品 中央研究所へ入社。
・1963年:農薬用殺菌剤セルタを開発、プロジェクトとして社長表彰を受ける。
・1970年:我が国最初のWORD MACHINEを用いたTEXT DATABASEの検索システム(Auto-Code)を開発。
・1973年:我が国で最初のExcerpta Medica(EMBASE)を導入。
・1979年:計量文献学を開発し日本科学技術情報センター(現在の科学技術振興機構 文献情報事業本部)より丹羽賞を受賞。
・1983年:合成セファロスポリン「パンスポリン他」の開発でプロジェクトとして社長表彰を受ける
・1985年:日本科学技術情報センター大阪支所より地域活動貢献により受賞。
・1987年:全社的文献情報検索システムを構築しプロジェクトとして社長賞を受ける。
・1989年:武田薬品を円満退社。

    同年:(株)エーアイビジネスを設立。

 (論文発表は多数有り省略)

 

 

 

 

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